欠片 に寄せて
最近,量子論についての,先生と生徒の対話形式の入門書を読みました。その中で,「物理的に完全な“無”という状態(真空)はあり得るのか」という生徒の質問に,先生が答えるくだりがありました。
真空と聞くと完全に何もない空間を想像します。しかし先生によれば,「ミクロな視点で見ると,実は真空の中は,一瞬だけあらわれては消える無数の粒子で沸き立っている」といいます。
5年ぶりに梅田さんと電話でお話ししたとき,梅田さんは,「ずうっと同じことをくりかえしている」と言いました。でもそれを聞いたとき,このくだりを思い出したのです。
「ツブノヒトツヒトツ」(2002年)のインタビュー記事で,梅田さんは,物質は一つ一つの粒の集合でできていて,その一つ一つが自分たちであると言っていました。
「粒は必ずすきまができる。液体になったとしても,分子レベルでは粒の集合であることに変わりはない。それが現実をかたちづくっているすべてです」。
「一つ思うことがあったら粒があらわれて,その粒からまた広がって。粒そのものはゼロ地点で,思いを中継するところ」。 (インタビュー記事より)
そのありようをはじめてあらわしたのが,ギャラリーいんふらまでのインスタレーション「ツブノ収拾」(国分寺・2000年)でした。来廊者が,壁面の作品から好きなものを選んで中央のタトウに収めていき,展覧会の最終日には壁面は空になるが,一つの作品集が残るというものです。
前述の入門書にはさらに,「粒子があらわれるとそれとは反対の電気をおびた反粒子があらわれ,それらがペアになると素粒子※になり,衝突するとエネルギーを放出して消滅する」とありました。
そして,そのエネルギーは膨大だといいます。
今回の「欠片」は,いわば原点回帰のインスタレーションと受け止めています。自分自身を粒子になぞらえ,無意味に画廊の空間にいて,そこで生成されるものに,あらためて身を委ねてみたいと思っています。 (岡部万穂)
※素粒子=原子核を構成する,物質の最小の部品。
関連企画1.ギャラリートーク 『‐反芻。ツブノヒトツと囁ノ欠片 』
日時:5月28日(水) 17:00-18:00 参加料:500円 (ワンドリンク付)
パネリスト:梅田恭子・岡部万穂 (季刊『版画芸術』元編集者) ※予約不要
関連企画2.インスタレーション 『囁ノ欠片』
会期中同時進行で開催 ※無料
会場に訪れるおひとりおひとりのささやきの欠片を作者が展示空間に結い付けます。
ご参加いただけましたら幸いです。
期間中は在廊の予定です。よろしくお願い申し上げます。
会期:5月23日(金)~6月2日(月) 12:00~18:00
ギャラリー1045(旧元麻布ギャラリー甲府)
〒400-0031
山梨県甲府市丸の内2-3-2東横イン甲府駅南口Ⅱ 1F
TEL:055-224-5564
URL:https://gallery1045.com