展覧会寸評『霧と爪』展(ギャラリーA.C.S)後藤泰洋氏 

『霧と爪』

納屋橋のトリエンナーレ展を見てA.C.Sの梅田恭子展を見た。トリエンナーレ展の空気と落差が大きくピントを合わせるのに時間を要し、再度訪れることになった。

美術は本来個人的なもので、トリエンナーレ展の見せ物アートとはちがう。テーマ「霧と爪」は30点並べられ、絵は霧の中で爪を見るようでコントラス トがなく、見える限界のニュアンスは神を見るようで、作者は決しておしつけようとしない。おくゆかしく共感者を期待する姿勢がさりげなく自然でうすいえん ぴつの小さな文字で「霧と爪」、「ほとほと」、「西風」、「夕方の空」・・・・・・と書かれたタイトルが作家梅田を象徴していた。

作品の強より弱に比重をおくおぼろ美学は神のように見えない美しさを求める信念にあると思った。

白秋の「曇日のオホーツク海」を連想した。

光なし、燻し空には 日の在処ただ明るのみ。
かがやかず、秀に明るのみ、オホーツクの黒きさざなみ。
影は無し、通風筒の、帆の網が辺に揺るるのみ。
寒しとし、暑しとし、ただ、霧と風、過がひ舞うのみ。

後藤泰洋

ギャラリーA.C.S『霧と爪』展より

2014年1月 季刊 La Vista 59 (ギャラリーA.C.S発行)

※こちらの文章は【絵によせられたことば】からもお読みいただけます。